公益事業におけるSustainability(持続可能性)を考える
今年の9月4日から6日の三日間、新潟県で日本知的障害者福祉協会主催の「第51回全国知的障害福祉関係職員研究会」が開催されます。
私は二日目の分科会「社会福祉法人の未来を考える~問われる専門性と役割」のシンポジウムにシンポジストとして登壇することになっています。
分科会で私に与えられたテーマは、「社会福祉法人の公益事業を通して、社会福祉法人の今後のあり方」について問題提起をすることです。
今回の「松上利男の一言」では、私ども法人の公益事業を中心とした独自の取り組みを通して、新潟大会で与えられた「社会福祉法人の未来・今後のあり方」を考えて見たいと思います。
私の考える社会福祉法人の社会的責任、役割は、地域社会の公器(地域の財産・資源)として、地域における様々な福祉的課題を解決することであると考えています。
そして、私ども法人は、法人設立当初から、この社会福祉法人の社会的責任・役割を果たすべく活動をしてきました。
特に社会福祉制度の谷間にある大変重い知的障害のある人たちや行動的課題のある人たち、自閉性障害のある人たちの支援に取り組んできました。
近年、社会福祉法人に対して、「社会福祉法人は、地域の福祉ニーズに敏感に対応することなく、制度の後追いをしているばかりではないか」との厳しい指摘がなされていますが、NPO法人や株式会社などの多様な経営主体が社会福祉事業に参入する状況下で、社会福祉法人と言う冠だけで社会的評価を得る状況ではないことは事実としてあります。
ですから、「社会福祉法人の未来・今後のあり方」を考える上で、社会福祉法人に本来求められている社会的使命である公益性をどのように発揮して、社会的な評価と信頼を得ていくかが重要な課題としてあります。
私ども法人は、先程もお話ししましたように支援サービスがない、不足している福祉的課題の解決に挑戦してきましたが、自閉症・発達障害のある人たちに対する先駆的取り組みを通して、「社会福祉法人の未来・今後のあり方」、特に継続したサービス提供を可能とする「公益事業におけるサスティナビリティ(Sustainability)とは何か?」についてお話ししたいと思います。
私ども法人の自閉症・発達障害のある人たちに対する取り組みが本格化した契機は、2002年にNPO法人「大阪自閉症支援センター」と「北摂杉の子会」の合併にあります。
NPO法人「大阪自閉症支援センター」の前身は、1993年に自閉症児の療育活動を目的として、自閉症児を持つ保護者が自主サークルを結成したことにはじまります。
ご存知のように自閉症・発達障害のある人たちに対する支援サービスとしては、2002年に創設された「自閉症・発達障害支援センター事業」が我が国初めての支援サービスであり、それまでは自閉症・発達障害に特化した支援サービスはありませんでした。
ですから、NPO法人「大阪自閉症支援センター」での療育活動は公的支援のない中で、親たちの提供する自主財源によって支えられていました。
私ども法人の経営戦略、いわゆる長期的目標の二つの柱の一つに「広域・特化」がありますが、この目標は、「大阪府を支援エリアとして、自閉症・発達障害のある人たちに必要なさまざまな支援サービスを創造し、幼児・学齢期から青年・成人期にわたる包括的な支援モデル・連携モデルの創造と発信を行う」ことです。
特に自閉症・発達障害のある人たちへの生涯にわたる包括的な支援システムの構築を考える上で、「早期診断・療育」は重要な課題としてあります。
そのような背景から、2002年のNPO法人「大阪自閉症支援センター」との合併を契機として、そこで提供されていた療育支援サービスを私ども法人の公益事業として継承し、支援の質の向上のための人材確保と育成、支援サービスの継続的な提供を可能とする運営基盤の強化を重要な運営課題として取り組みを始めました。
幸運なことに2002年6月に、大阪府より「大阪府自閉症・発達障害支援センター事業」を受託したことから、大阪府と自閉症・発達障害のある人たちに対する包括的な支援体制構築に向けた協議が始まり、その中で、「早期診断・療育体制」の構築が必要であるとの共通理解を得ることができました。
その結果、2003年4月から、法人が行っている療育支援をモデルとした大阪府独自の療育モデル事業「自閉症児療育強化事業」の実施へと繋がっていくことになります。
その後、大阪府との協働の中で、療育モデル事業から発展した大阪府の独自事業である「自閉症・発達障害療育等支援事業」(2005年4月)の創設がなされることになります。
現在、大阪府内の6保健福祉圏域に各1箇所の自閉症・発達障害療育等支援事業所が開設され、大阪府における早期療育体制構築の基盤が整うことになりました。
このような大阪府での自閉症・発達障害児に対する療育支援サービス提供への取り組みを受けて、大阪市においても大阪府と同様の療育支援モデルに基づいた療育支援サービス提供の取り組みが始まり、私ども法人が運営する「児童デイサービスセンターan」が大阪市の療育事業を受託することになります。
昨年度より大阪府の「自閉症・発達障害療育等支援事業」は市町村事業として引き継がれることになりましたが、私ども法人と大阪府との自閉症・発達障害のある子どもたちに対する療育支援体制構築に向けた協働の結果、大阪府・市における療育支援体制の創造がなされ、それぞれの事業所における経営基盤の安定と継続した支援サービスの提供が図られるようになりました。
私ども法人が取り組んできた自閉症・発達障害のある子どもたちへの療育支援サービス創造の実践が示すように、社会福祉法人の社会的責任と役割を考えるとき、社会福祉制度にない支援サービスの創造のために、支援を必要としている人たちに対して、公益事業を通して支援サービスを提供する実践は非常に重要であると思っています。
そして、このような実践を通して、真に地域住民から信頼される社会の公器としてある社会福祉法人としての価値を得ることができると思っています。
しかし、公益事業の運営にとって重要な課題は、事業の継続・安定的な支援サービスの提供にあります。
私ども法人は、公益事業である自閉症・発達障害のある子どもたちに対する療育支援事業を通して、社会福祉法人としてのあり方について多くのことを学びました。
特に、「公益事業におけるSustainability」については、以下の視点が重要であることを学びました。
現在、法人の公益事業として、自閉症・発達障害のある人たちに対する「療育相談」、
「発達検査」、「中高生療育」、「保護者研修(家族支援)」、「講師派遣」、「講座」等の事業を「研修相談支援室(PASSO)」で行っています。
また、昨年度から発達障害のある大学生支援を就労支援事業所「ジョブジョイントおおさか」で始めています。
このような先駆的・開発的事業の実施についても、以上の視点が基本にあります。
同時に、私ども法人は公益事業や先駆的開発的事業の実施を通して、次のことも法人のあり方を考える上で重要であることを学びました。
私ども法人は、今後も法人の理念、使命に基づいて、ニーズに向き合いながら社会福祉
法人としての社会的責任を果たすためにも、必要とされている支援サービスを創造していく実践を続けていかなければならないと思っています。
そのようなときには、公益事業の運営で学んだSustainabilityの視点と社会福祉法人としての経営のあり方を基本として必要とされる支援サービスの創造を通して、社会福祉法人としての社会的責任を果たしていきたいと思っています。