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第56回

コミュニケーションについて考える

 

 先月の26日にPandA-J(略称:ぱんだ)主催の「ぱんだ濃厚ゼミ」にゲストスピーカーとして参加しました。
 PandA-Jは動物のパンダではなくて、Protection and Advocacy-Japanの略称で、1990年の後半から主に知的障害のある人たちの権利擁護・成年後見制度などの支援をされています。
 最近では発達障害のある人たちの支援にも力を入れていて、私どもの法人との関係では、今年度の厚生労働省の研究補助金事業で私ども法人が取り組んでいる「発達障害のある学生への就労支援」モデル事業を協働して関東地区で中心的に取り組んでいただいています。
 私自身もPandA-Jが実施した2008年度と2010年度の厚労省研究助成事業に研究協力者として関わり、「障害者虐待防止マニュアル~行政・支援者が障害者虐待に適切に対応するために」「サービス提供事業所における虐待防止指針および身体拘束対応指針に関する検討」の報告書がPandA-Jから出版されています。入手ご希望の方はPandA-Jホームページから購入できます。
 PandA-Jの説明が少し長くなりましたが、「ぱんだ濃厚ゼミ」は、一人ないし数名の方をゲストスピーカーとして迎え、朝の10時から夕方の5時ごろまで議論するという超ハード企画です。
 当日は、私と同じく2010年度のPandA-Jの研究事業に関わられた社会福祉法人京都ライフサポート協会理事長樋口幸雄さんがゲストスピーカーとして参加して、コーディネーターの毎日新聞社論説委員の野沢和弘さんの進行で、約6時間、障害者虐待を中心テーマとして参加者全員で議論しました。
 参加者は約20名、社会福祉関係者を中心に教育・行政関係者、弁護士、親など、年齢や経験も多様な方々です。
 このような多様な参加者の方々と6時間議論するという企画の面白さに参加前から魅力を感じていました。また、自分自身のコミュニケーション能力を鍛える貴重な経験・修行の場であると楽しみにしていました。
 「ぱんだ濃厚ゼミ」を終えてみて、様々な立場を超えて真剣に議論することの意義を感じました。その反面、どの程度皆さんに私の話が伝わったのかということが少し気掛かりな点として残りました。
 「ぱんだ濃厚ゼミ」では、20人程度の少人数の中で、全員参加型で議論するという場の設定でしたので、私の話の内容についてお互いにフィードバックし合う中で確認することができましたが、100人、200人の参加者に対して一方的に話す講演形式では、多くの方にどのように話せば伝わるのかいつも悩むところです。
 私自身、他者とのコミュニケーションにおいて、私の思いが受け手に正確に伝わっているのか常に気になる点であります。特に私ども法人内の職員とのコミュニケーションにおいて、相互の意思疎通が上手くできているのかという点は、特に気になるところです。
 マネジメントの観点から、組織内におけるコミュニケーションの重要性については、多々議論されていますが、その反面、多くの組織で課題を抱えていることも事実だと思います。
 先日私ども法人内の部長、副部長級会議で、職員の養成や組織内のコミュニケーションのあり方について議論をしていたのですが、「ぱんだ濃厚ゼミ」に刺激されて、職員同士で議論する場や機会を積極的に作っていきたいと強く感じました。
 GoodからGreatへ飛躍を遂げた企業の共通点を分析した著書「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」の中に、「偉大さへの飛躍を遂げた企業はすべて、激しい議論を好む傾向をもっている。」という考察がなされています。
 そして、「『大声での論争』『白熱した議論』『健全な対立』といった言葉が、すべての会社の記事やインタビュー記録に繰り返しでてくる。方針を決めた後に従業員が『自分の意見を言える』機会を作り、『参加型』の形を整える、そういう場として会議を使ったりはしない。科学者の白熱した論争に似ており、全員が最善の答えを探している。」との考察結果がまとめられています。
 全員が最善の答えを探して、全員が納得する結論を得るまで議論する組織文化を作ることができれば本当に強い組織になると思います。
 皆さんも常々このような闊達な職員間のコミュニケーションがなされる中で、組織運営ができればと考えておられると思っていますが、私も一歩一歩そのような組織文化を作るための手掛かりを探りながら取り組みを進めていきたいと考えています。
 皆さんご存知のように「松上利男」の一言の中で、ドラッカーの「マネジメント」についてお話していますが、ドラッカーの著書「プロフェッショナルの条件」の中で、「優れたコミュニケーションとは何か」が書かれています。
 これから組織マネジメントにおけるコミュニケーションのあり方を考える上で、参考になると思いますので、少しその内容について、お話しします。
 先ず、ドラッカーはコミュニケーションについて四つの原理があると言っています。
 一つ目は、「コミュニケーションを成立させるものは、コミュニケーションの受け手である」ということです。
 二つ目は、「われわれは知覚することを期待しているものだけを知覚する」ということです。
 ドラッカーはプラトンの「バイドン」におけるソクラテスが言った「大工と話すときは、大工の言葉を使わなければならない」を例にあげて、「コミュニケーションは,受け手の言葉を使わなければ成立しない。受け手の経験にある言葉を使わなければならない。・・・経験にない言葉で話しても、理解されない」と説いています。
 ごく当然のことですが、コミュニケーションが成立するには、受け手がいて初めて成立するのであり、受け手の期待する内容、理解できる内容でないと受け手がコミュニケーションを受け止めること(知覚)ができない、すなわちコミュニケーションが成立しないということになります。
 三つ目として、「コミュニケーションは常に、受け手に対して何かを要求する(何かをすること、何かになること、何かを信じること)」と説いています。
 特に組織内のコミュニケーションのほとんどが、受け手に何かすることや何かになってほしい(役割期待)などを要求することが基本となるわけですから、当然のこととして、受け手の価値観や要求、目的に合致する内容であれば受け手の強力なモチベーションとなるわけです。
 四つ目は、「コミュニケーションと情報は別物、コミュニケーションは知覚の対象、情報は理論の対象」ということです。
この四つのコミュニケーションの原理は、私たちの日常繰り返されるコミュニケーションのあり方を振り返り、考え直す一つのきっかけになると思いますが、ドラッカーはそのコミュニケーションの前提は、「目標と自己管理」であると説いています。
 私は、マネジメントにおけるコミュニケーションを考える上で、このことが要点であると思います。
 書籍では以下のように説いています。
 「目標と自己管理によるマネジメントこそ、コミュニケーションの前提である。目標と自己管理によるマネジメントにおいては、『自分はいかなる貢献を行うべきであると考えているか』が明らかにされる。・・・目標によるマネジメントの第一の目的は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにすることにある。・・・実は、こうして同じ事実を違ったように見えていることをたがいに知ること自体が、価値あるコミュニケーションである。」
 上司と部下とでなされるコミュニケーションを通して、部下についていえば、「意思決定の実体、優先順位の問題、なしたいこととなすべきことの選択、意思決定の責任など、上司の抱える問題を理解することができる」と説いています。
 この箇所を読んで、組織におけるコミュニケーションにおいて、本当に大切なことは「どのような貢献ができるか」ということを前提として、お互いの立場を理解して、組織の目的の実現に向けてコミュニケーションすることがマネジメントにおけるコミュニケーションだと気付かされました。
 またこの視点を全ての組織メンバーが共有したとき、真に強い組織になると感じました。
 そして、ドラッカーは、目標におけるマネジメントについて、次のように結論づけています。
 「コミュニケーションは、私からあなたへ伝達されるものではなく、われわれの中のひとりから、われわれの中のもうひとりへ伝達されるものである。組織において、コミュニケーションは手段ではない。それは組織のあり方の問題である。これこそ、われわれがこれまでの失敗から学んできたことであり、コミュニケーションを考えていくうえで基本となるべきもっとも重要な結論である」
 最後は少し硬い話になりましたが、組織内におけるコミュニケーションのあり方は、マネジメントを考える上で重要な課題です。
 組織の全メンバーが「私は何をもって貢献できるか」を前提として闊達な議論ができること、それが日常的になされる組織であるという組織文化を創り出していくために、私ども法人全職員と力を合わせて歩みだしたいと願っています。
 職員の皆さん、「北摂杉の子会濃厚ゼミ」を開いてみませんか?
 もちろん主役はあなたです!

掲載日:2012年09月28日