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第46回

社会福祉法人の社会的責任とは? ~マイクロファイナンス・インターナショナル杤迫篤昌さんの実践に学ぶ~

 


 昨年10月、NHK教育放送ETV特集「金融は貧困を救えるか」という番組の放送がありました。
 貧しい女性の起業を支援するために小口の資金を無担保で貸し付けるというバングラディッシュでのグラミン銀行の取り組み(「マイクロファイナンス」)は有名ですが、この番組の主役である杤迫篤昌(とちさこあつまさ)さんは、アメリカで暮らす出稼ぎ労働者や貧困層の人たちのための格安手数料による国際送金サービスを創設され、現在、さらに貧困層の人たちに新たな金融サービスの提供を目指して、活躍されています。
 この事業を始められた杤迫さんの原点は26歳で留学したメキシコにあります。
 親しくなったインディオの露天商の方に夕食に招かれ、夕食をご馳走になりました。
 帰り際に幼い子どもが「また来て欲しいな。お肉が食べられるから」と杤迫さんに言ったのですが、肉を食べた記憶がありません。
 肉を食べた記憶がなかったのですが、良く考えると「スープに浮いた葉っぱのようなものが肉だったのか」と気付かれたそうです。
 杤迫さんは、あまりの貧困に衝撃を受けると共に、「まじめに働く人々が報われない社会はおかしい。この歪みを解決したい」との思いが目標になったということです。
 現在、アメリカでは5千万人の中南米から移民した人たちが自国に年間6兆円を送金しているそうです。
 その多くの人たちは銀行口座を持つことができず、しかたなく専門の送金業者を使うのですが、小切手の換金や送金などで家族の手に届くまでになんと元金の3割が手数料で消えてしまうそうです。
 そのような現実を知った杤迫さんはメキシコでの思いと重なり、「額に汗して得たお金を失うことは、金融のプロとして許せない」と強く思われ、移民の人たちに役立つ金融サービスの仕組みを創設しようと思われました。
 株式会社「マイクロファイナンス・インターナショナル」開設の始まりは、そのような杤迫さんの金融プロトしての熱い思いからでした。
 マイクロファイナンス・インターナショナルの送金手数料は金融業界平均の半分以下であり、しかも送金直後に現地でお金を受け取ることができます。
 このことを可能にしたのは、独自のインターネットを使った送金・決済システムにあります。
 送金網は100ヵ国をカバーしているということで、それぞれの顧客の送金実績を基にして、無担保の小額融資も創設されていますが、融資の焦げ付き率は5%ということです。
この実績を踏まえて、移民の人たちの故郷での起業や住宅建設費用はなどにたいしての「国境越えローン」も始められています。
 杤迫さんの事業に対する出資者の9割は日本人ですが、2億円を出資されたご夫婦もおられます。
 ご夫婦は、「大変な決意ですね。そのロマンに付き合います」と出資の動機を語られたそうです。
 杤迫さんは大手銀行の金融マンとして働かれていたのですが、「金融は金持ちのためではなく、貧困ゆえに助けを必要としている人のためにならなければならない」との使命と経営トップとしてのその実現に向けた真摯な態度が、多くの人々に共感を与え、この新しい事業の創造と発展に大きな影響を与えているのだと思います。
 あのリーマンショックによる世界的な金融危機の中、杤迫さんの事業は顧客も含めて、その金融システムの外にいたので、まったくその影響を受けなかったのは、金融のあり方を根底から問う皮肉な結果だと、何かすっきりする感覚を覚えました。
 経営学者であるドラッカーは著書「非営利組織の経営」の中で、「非営利機関は、人と社会の変革を目的としている」と第1章「使命とは何か」の冒頭で述べています。
 現在、様々な角度から社会福祉法人改革が論じられていますが、その批判の主たる論点の一つが、「地域の福祉ニーズに敏速に対応することなく、制度の後追いをしている」(社会福祉法人のあり方検討会)というものです。
 杤迫さんの実践に学ぶべき点は、「金融は金持ちのためではなく、貧困ゆえに助けを必要としている人のためにならねばならない」という金融組織としての明確な理念と使命を掲げているところにあります。
 私たち社会福祉法人としての組織の使命は、「福祉サービスを必要としているあらゆる人たちに必要とされる福祉サービスを創造して、提供する」ことにあります。
 その組織の原則はドラッカーが提起している「人と社会の変革」にあります。
 社会の変革なくして、新しい福祉サービスの創造はできません。
 その実現に向けた私たちの自責的で真摯な態度がなければ、人との共感と連携、すなわち「人の変革」はできません。
 杤迫さんの素晴らしい使命に基づく実践を通して、改めて私たち社会福祉法人の使命と社会的責任について、皆様と共に考えたいと思います。

掲載日:2011年01月21日