普通に生きることの意味 ~佐藤きみよさんの生き方を通して~
私たちの法人機関紙「ひゅーまん ねっとわーく 地域に生きる」に「ひゅうまんリレー」というコーナーがあります。
第1回目(2007年4月発行・第29号)は、私から沖縄県の社会福祉法人若竹福祉会総合施設長村田涼子さんに寄稿をお願いしました。
その後執筆して頂いた方からご紹介を頂いた方々にバトンを渡して行き、現在まで10人の方々から自身の活動や福祉に対する思い、障害のある人たちとの関わりなど、様々な思いを語り繋いで下さっています。
私は、いつもこのコーナーに登場して下さっている方々からのメッセージから、勇気やエネルギーを頂くとともに、自らの生き方を振り返り、多くの気付きや学びを得ています。
そして、第38号(2009年7月発行)で、ちょうど10人目の方にバトンが渡りましたが、初めて障害当事者の方の登場となりました。
今回寄稿していただいた佐藤さんは、北海道にお住まいの方で、進行性脊髄性筋萎縮症という障害があることからベンチレーター(人工呼吸器)を付けて生活をされています。
一生涯を施設や病院の中だけで終わる人生は絶対に嫌だと、90年の春にベンチレーターを付けての自立生活を始められました。
佐藤さんは、友人やボランテアに支えられての自立生活を始められましたが、当時ヘルパー派遣は週に2回、1回の支援は2時間という極端に貧しいサービス状況にありました。
そうした大変貧しいサービス状況の中、常に生命に危険が伴うリスクを覚悟して、あえて地域の中での暮らし・自立生活を選択した彼女の生き方から、障害のある人たちの根源的なニーズや私たち支援者が考える支援のあり方について、深く考えさせられました。
私たちは、「地域に生きる」という法人としての理念を掲げ、その実現に向けて、必要とされる障害のある人たちにとっての支援サービスや支援連携モデルの創造を私たちの実践の立ち位置としています。
佐藤さんの生き方から学んだこと、そして、その中で、私たちがもう一度確認しなければならないことは、「『地域に生きる』という基本理念は、障害の有無にかかわらず、人間が人間として生きる上での基本的条件・権利である」ということです。
「地域に生きる」ということは、「障害のある人たちのニーズ」ではなく、「人間としての権利」であるということです。
人間が猿から人類への進化を可能にしたことは、「類として存在したこと」、すなわち「社会を形成したこと」にあります。
そのように考えたとき、佐藤さんの自立生活の実践から私たちに向けられた根源的な問いかけは、「障害の有無にかかわらず、様々な人たちが地域の中で、共に支え合い平和に暮らすという人類としての根源的な営みの実現に向けて、私たちがどのように生きるのか、何をなすべきなのか」ということであるように、私は思います。
また同時に、佐藤さんは、「重い障がいを持つ私たちに必要なのは、管理されることではなく、自分らしく生きられる豊かな社会なのだ」、「私たちに必要なのは、管理ではなく自立だ」と強く主張されています。
佐藤さんは、生命の危険を自覚されながら、それでも施設・病院での管理された暮らしから地域での自立した暮らしを自ら選択・決定したという思いが、この「私たちに必要なのは、管理ではなく自立だ」という言葉に凝縮されています。
この佐藤さんの強い意志は、支援サービスを提供する私たち支援者に向けられた障害当事者からの強烈なアンチテーゼであると思います。
当然のこととして私たち法人は、支援の基本方針の中で、利用者主体の支援、自立支援の重要性を掲げ、利用者に対する日常的な支援を行っていますが、そのことをして、ともすれば保護的、管理的な「支援」に陥っていないかということについて、振り返る必要を佐藤さんの言葉から感じました。
私たち法人も入所施設から地域生活への移行支援を継続的に行っていますが、現状として障害のある人たちが地域で暮らす上でのリスクは多くあります。
もちろん予想されるリスクを少なくして、安全に安心して地域での暮らしができるように、支援者として、障害のある人たちと共に移行に当たっての準備をしています。
しかし、全ての条件が整うのを待ってから、地域での暮らしに移行するというようなことは不可能なことです。
障害のある人たちの「地域で自立生活がしたい」という自己選択・自己決定を大切にして、リスクがあっても地域での暮らしを支えていくことが、利用者主体の支援であると思います。
私たちは、現在、法人第2次5ヵ年事業計画の一つとして、強度行動障害を伴う重い知的障害・自閉性障害のある人たちの地域での暮らしの場としてある「ケアホーム」の開設と地域支援の実現に向けた取り組みを進めています。
また今年4月に開設した高槻地域生活総合支援センター「ぷれいすBe」においては、医療的ケアが必要な重い知的障害と身体障害を伴う人たちの支援も始めました。
今回の「ひゅうまん リレー」を通して、ベンチレーターを付けて自立生活をされている重い障害のある佐藤さんの生き方に学びながら、私たちの目指している「重い障害のある人たちの地域生活支援」の実践に繋げて行きたいと強く決意しました。
次回の「ひゅうまん リレー」は、佐藤さんからのご紹介で、障害当事者であるALS協会(筋萎縮性側索硬化症と共に闘い、歩む会)北海道支部で活躍されている平尾冨美子さんです。
また多くの学びが得られることを期待しながら、今回の一言を閉めたいと思います。