「お互いを尊重する」こと
今年の4月に「高槻地域生活総合支援センターぷれいすBe」が開所して、約3ヶ月が経過しました。
「ぷれいすBe」は、就労移行支援事業、自立訓練事業、就労継続B型事業、生活介護事業、日中一時支援事業、短期入所事業、相談支援事業という7つの支援サービスを知的障害、精神障害、身体障害のある方たちに提供する多機能型施設です。
現在まで、私ども法人は、知的障害のある方、自閉症・発達障害のある方に対する支援を行ってきましたが、「ぷれいすBe」開設によって、初めて身体障害のある方、特に重い身体障害と知的障害のある方、精神障害のある方に対する支援を始めることになりました。
これだけ多機能な支援サービスの提供と様々な障害のある利用者の方々を支援するという私ども法人にとっての初めての経験の中で、何とかこの約3ヶ月間、スムーズに施設を運営し、利用者の皆様方に支援サービスを提供できたことで、ほんの少しですが今後の施設運営の見通しが持てたように感じています。
もちろんまだまだ多くの運営的課題が山積していますし、利用者の皆様には十分納得して頂けるサービスレベルには達していません。これから先、謙虚に運営的課題について評価と改善を続け、利用者・ご家族の皆様に対して、より質の高いサービスの提供ができるように取り組んでいかなければならないと思っています。
しかし、何とかこのようにスムーズなスタートができたのも、準備段階から開設に向けての様々な業務を遂行した「ぷれいすBe」水藤施設長初め、職員皆さんの努力と働きのお蔭であると感謝しています。
「ぷれいすBe」で最も大切にしていることは、全ての職員・利用者の中で「お互いに尊重する」ことを施設運営の中心に据えて、お互いの育ちや自己実現を目指していることにあります。
先日、大阪府立高槻支援学校高等部の2年生・3年生の保護者の皆様に対して、「ぷれいすBe」の見学・説明会を行いました。
事業説明の中で、水藤施設長は、「『ぷれいすBe』では、職員、利用者の皆さんを含めて、『お互いを尊重すること』を最も大切にしています。そして、先ず職員同士がお互いを尊重するという関係性の中で、その重要性を感じ取ることを通して、利用者の皆様に対してもその支援関係の中で、『お互いを尊重する』という関係性を築くことができると思っています」と話しました。
私自身も「お互いを尊重する」ということは、対人関係の中で非常に重要なことだと思います。
「尊重する」ということは、「相手を信頼する」ことであり、「相手の立場に立って考える」ことであり、「相手の自己決定を認める」ことであり、「自分自身にとって相手が必要な存在だと認める」ことであると思います。
施設における職員と利用者との支援関係において、この「お互いを尊重する」という視点が希薄になると、利用者中心の支援から支援者中心の支援へと、その主体が入れ替わってしまうことになります。
よく施設で見受けられる場面ですが、利用者同士が言い争ったりしているときに、職員は直ちに二人の間に介入して、お互いの言い分を聞かないで、「いつも喧嘩して、ええ加減にしときや。仲直りしなさい」などと結論だけを言ってしまう光景に出会うことがあります。
冷静に考えなくてもこのような職員の対応は、何の解決にもならないですし、支援でもないわけです。
明らかに支援関係の主体が職員の側に移っていますし、職員の側にパワーも移ってしまっています。
言うまでもないことですが、職員は、先ずお互いの言い分を十分聞き、二人に様々な解決策を提案すること、例えば、「一度話し合ってみれば」とかの提案を行って、そのことの決定を利用者二人に委ねることが支援の基本となります。
「お互いを尊重する」ことを支援の基本に据えれば、このような職員からの一方的な利用者に対する「支援」にはならないはずだと思います。
私は、1987年4月から89年9月まで、「京都市横大路学園」(通所授産施設)で主任指導員として働いていました。
そのときに、利用者の方一人ひとりとゆっくりと話し合うという取り組みをしたことがあります。
面談室で一人10分~15分程度の面談ですが、お茶を差し上げて、椅子に座って、お互いに向き合いながら、じっくりとお話をお聞きしました。
ある面談の中で、女子利用者の一人の方が、「私、今までこんなにちゃんと話を聞いてもらったことなかったわ。生まれて初めてや。ゆっくりと話を聞いてもらったん」と私に話されました。
私はこのとき、彼女の話を聞き、多くの利用者が一人の人間として、家族や隣人、教師や支援者との間で、ゆっくりと向き合って自分自身の話を聞いてもらえたという経験が本当に少なかったのではないかとの思いを強く持ちました。
同時に、私自身、これまでの利用者支援のあり方に大いに反省をしました。
「お互いを尊重する」という思いが教師や支援者に強い思いとしてあれば、障害のある人たちがもっと良い他者との関係を築けたのではないかと、「ぷれいすBe」の実践を通して、「お互いを尊重する」という大切さを再認識しました。
そして、私ども法人の文化として、「お互いを尊重する」ことが職員・利用者全体に染み込み、根付いていくように、「ぷれいすBe」の実践を見守り、そこから学んでいきたいと思います。