障害者自立支援法と個別支援
今年の3月に「萩の杜」(知的障害者入所更生施設)が障害者自立支援法における事業体系に移行しました。
これにより、「萩の杜」は、夜間支援としての「施設入所支援事業」と日中活動支援としての「生活介護事業」の二つの事業を行うことになり、現在、利用者の人たちに対して夜間支援と日中支援とを組み合わせて、一体的に支援をしています。
「萩の杜」の新事業体系への移行により、私ども法人の全ての事業が障害者自立支援法への移行を完了しました。
障害者自立支援法については制度設計における様々な問題点が指摘され、その見直し論議が活発に行われていますが、今回は障害者自立支援法において、個別支援がどのように考えられているのか、また私たち支援者が今後どのような支援を考えなければならないかについて、少しお話をしたいと思います。
障害者自立支援法においては、「個別支援」「個々人のニーズに着目する」ことが重要視されています。
例えば日中活動支援については、「就労移行支援事業」、「自立訓練事業」、「就労継続事業A型・B型」、「生活介護事業」という5つのサービスに分かれています。
企業等への就労ニーズのある人は「就労移行支援事業」を利用することになりますし、いわゆる福祉的就労ニーズのある人は「就労継続事業B型」を利用することになります。
また特に障害の重い人たちの生産活動や創作活動、機能訓練等のニーズのある人には「生活介護事業」を利用することになります。
旧法、いわゆる従来の日中活動支援については、「通所授産施設」と「通所更生施設」が主な支援サービスとしてありましたが、その利用者は、就労支援のニーズのある方から創作活動や機能訓練などのニーズのある方まで、多様なニーズのある人たちが一つの事業体系の中に混在している状態でした。
障害者自立支援法では、この多様化したニーズが混在している状況を利用者ニーズという切り口から上記5つのサービス体系に分けるとともに、サービス利用に際しては、サービス提供者が利用者のニーズに基づいて個別支援計画を策定することと、それに基づく利用契約を義務付けた点が大きな特徴としてあります。
この障害者自立支援法における利用者支援の基本は、利用者の個々のニーズに基づく「個別支援」にあるといえます。
私どもの法人は、「運営の基本方針」の最初に「利用者それぞれのニーズに基づいた個別的支援を実施します」と掲げていますが、障害者自立支援法の利用者支援の基本的な考え方と合致しています。
私はこの利用者支援についての新法の基本的な考え方を高く評価しています。
そして、私たち支援現場では、法人設立以来当然のこととして、利用者ご本人のニーズや様々な情報を収集し、利用者・家族の方々との面談を通して個別支援計画を立案し、支援を行っています。
しかし、「通所授産施設」、「通所更生施設」から障害者自立支援法における「生活介護事業」などに移行した施設の中には、従来の集団的支援をベースとした「日課」や「集団的プログラム」に基づく支援という視点からの意識改革が進まない状況があるように感じます。
本来的に、個別的ニーズに基づく支援を考えた場合、例えば一つ一つのプログラムの検討をするときに、「音楽療法をしたい利用者の方が3人いらっしゃいます。ですから何曜日のこの時間に3人の方を対象にこのような音楽療法を実施しましょう」という様に、あくまでも利用者個々人の個別ニーズから始まって、結果として一つのプログラムが立案されることになります。
そして、同じ音楽療法というプログラムの実施であっても、それぞれの利用者のニーズによって支援内容が異なってくるはずです。ある人は機能訓練のニーズであったり、ある人は音楽療法を通じた自己表現のニーズであったり、またリラクゼーションということもあります。
先ず統一的な「日課」や「プログラム」が利用者ニーズよりも先にあり、「日課」や「プログラム」という枠組みに利用者を合わせていくという「支援」ではなくです。
私ども法人の日中活動支援事業所である「ジョブサイトひむろ」、「ジョブサイトよど」では、一応いわゆる始業時間、昼食時間、終業時間という設定はありますが、基本的には利用者の個別ニーズに基づいて、仕事や活動の内容や量、時間、休憩時間や回数がそれぞれ異なった内容になっています。
また就労支援についても利用者ニーズに基づいて、様々な働き方の支援が実現しています。
例えば、高齢者施設でクリーニング業務に従事されている2名の利用者の方は、午前中はアルバイト契約で就労し、午後からは職員が支援に入ることで継続的な就労をサポートするという実践をしています。ですからこの2名の利用者の方は、午後からは日中活動支援事業の利用となります。
またある利用者の方は、週のうち2~3日、高齢者施設での清掃作業にアルバイト契約で従事して、他の日は「ジョブサイトひむろ」の就労移行支援事業を利用されています。
従来の施設利用では、利用者の方は利用料を月額単位で支払わなければならなかったのですが、障害者自立支援法では利用した日だけ支払う「日額払い制」になったこともあり、このような多様な働きや施設利用が可能となりました。
利用者のニーズを中心に据えた支援については、私どもとしてもまだまだ十分とはいえませんが、限られた収入の中で、更なる工夫を行いながら、私たち法人の運営基本方針の最初に掲げた「利用者それぞれのニーズに基づいた個別的支援の実施」の充実に向けた実践を今後も積み上げて行きたいと思います。