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第26回

インドネシアからの看護師、介護福祉士候補者の受け入れに思う

 


 個人的に今年の2月から、インターネットによる英会話の学習を始めました。
 この英会話学習の先生は、フィリピンで暮らすフィリピン大学の学生や卒業生で、インターネットによる無料通話システムのスカイプを利用しての学習になります。
 この英会話学習の魅力は、なんと言っても授業料が格安であることです。1レッスン25分ですが、私のレッスンコースは週末(金・土・日)50分コースで、授業料は月額5千円です。ちなみに毎日25分コースは月額5千円、毎日50分コースが月額8千円ですから、1レッスン約134円からという激安価格ということになります。
 魅力の2番目は「駅前留学」ではなくて、「自宅留学」であるということです。レッスン予約はレッスン開始の5分前までOKですので、自由なちょっと空いた時間を使って気軽に学習できる点です。
 3番目の魅力は、異文化を理解できることです。何気ない会話の中で、例えば朝食で私が食べたバナナの話から、その価格の話へと発展して、フィリピンとの価格の差に驚いたり、英会話を通して、両国の社会、経済、文化などの違いを理解することで、国際的な問題の理解へと発展していきます。
 特に、発展途上国であるフィリピンの抱える様々な問題を通して、私たちの国、日本の今後のあり方について気づき、考える機会が多くあります。
 先日、日本の福祉分野における人材不足の話題から、インドネシアからの看護師、介護福祉士の受け入れの話に話題が発展し、フィリピンにおけるフィリピン人の海外労働の話になりました。
 フィリピンでは、看護師や教師が海外での働きの場を求め、アメリカなど欧米諸国へどんどん働きに出ているという現状があるということです。
 英会話の先生は「brain drain」(頭脳の排出)という言葉を使っていましたが、いわゆる優秀な看護師や教師が海外へと流出してしまうことによるフィリピン国内の問題を指摘していました。
 先日、日本とインドネシア両国の経済連携協定(EPA)に基づいて、インドネシアから看護師、介護福祉士の候補者の受け入れを進めることになり、インドネシアから205人の人たちが来日しました。
 EPAで合意した受け入れ人数は、2年間で看護師候補400人、介護福祉士候補600人の合計1,000人としていますが、看護師候補は3年以内、介護福祉士は4年以内に日本語の国家試験に合格しなければ強制帰国させるなど、その制度的な問題点を指摘する意見が多く出されています。
 日本政府はフィリピンとの間でも実施の検討を行っていて、政府の今年度予算に、フィリピンからの派遣も含めて、関連予算として約19億円計上しています。
 この海外からの看護師、介護福祉士の受け入れは、医療・介護福祉現場における深刻な人材不足に起因していますが、厚生労働省の予測では、現在4万人の看護師が不足していて、6年後には、45万人から55万人の看護師が不足するということです。
 私ども法人でも同様の課題を抱えていて、特にパートタイマー職員、看護師の確保に苦戦しているのが現状です。人材不足により、事業が破綻するという危機意識が常にあります。
 このことは、私たち一法人の問題に止まる問題ではありません。日本の将来のことを考えると、何らかの緊急対策を講じなければ、高齢者・障害者福祉や医療分野における人材不足による医療・福祉制度の破綻という最悪の結果を招いてしまいます。国家としての最大の課題だと思います。
 政府としては、今回のインドネシアや海外からの看護・介護労働者の受け入れや介護報酬など制度的な見直しなどの対策を検討しています。
 しかし、医療・福祉分野における人材不足の課題は、国としての課題に止まらず、私たち自身の今後の暮らしのあり方に関わる課題であると思っています。
 皆さんもご存知のように、社会保障(制度)は、英語で「social security」といいます。「security」は安全・安心ということになります。
 私がこの人材不足の問題を自分たちの暮らしの問題に引き寄せて考える必要性があると強く感じるのは、今まさに、この私たちの暮らしの「安全・安心」の崩壊という社会的危機の進行が進んでいると思っているからです。
 今回、この医療・介護福祉分野における人材不足の解決策の一つとして、インドネシアなど海外の発展途上国からの労働力の確保という対策が講じられたのですが、私は、英会話の先生から、フィリピンでの海外への人材流出による国内的問題を学んでから、この政策が自国の問題解決のみの視点で進められるのではなく、インドネシアから日本に来られた看護師・介護福祉士の人たちの人生にとって、またインドネシアの国にとっても幸せになるという視点で制度が改善され運用される必要性を強く思うようになりました。
 このことは同時に、日本という国、そして私たち一人ひとりが、アジアの国々、人々とどのようにしてお互いの文化を認め合い、対等の関係で共存していくかというグローバルな視点から、私たち自身の今後の暮らしの形を見つめ直すことを意味しています。
 英会話学習に話を戻して、もう少し視点を変えて、具体的に、今後のアジア諸国からの人材受け入れについての基本的な視点について、私なりに考えていることをお話します。
 この英会話スクールのことが産経新聞の特集記事(H20.4.23)で取り上げられていますが、記事では、在宅での破格レッスンを可能にした要因として、「国家間の賃金格差」、「低価格のブロードバンドインフラ」、「P2P(ピアツーピア)通信技術」の三点を上げています。
 私がこの英会話事業のビジネスモデルとして特に注目している点は、「国家間の賃金格差」を活用して、日本の学生にとっては格安で英会話の授業を受けることができ、同時にフィリピン大学の学生である先生は、自分自身の能力を活かして、在宅でのアルバイトで、しかも良い賃金を得ることができるという双方にとって「win・win」の関係であることです。
 このように双方の国、働く人々にとって対等で、しかもお互いの「勝ち」、「利益」となる外国人看護師・介護福祉士受け入れについての制度設計が必要であると思います。
 また、日本人にとっても医療、高齢者・障害者福祉の介護現場が、魅力があり、働き甲斐があり、経済的にも安定した生活を送ることのできうる賃金水準が保障される職場環境であることが必要です。
 日本人が敬遠する職場環境をそのままにして、低賃金で外国人の労働力を当て込んでいるとすれば、日本の品格が問われることになります。
 今回は、インドネシアからの看護師・介護福祉士の日本での受け入れの問題を中心に据えながら、私たちの国や暮らしのあり方、特にアジアの国々、人々との関係などについて、私なりの思いをお話しました。
 様々な視点から議論すべき課題が多くありますが、皆さんのご意見をお待ちしています。

掲載日:2008年08月28日