自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第23回

パターンを変える

 


 対人関係での問題が解決できないことが多くあります。そんな時、私たちの行動のパターンを変えてみることが問題の解決につながることがあります。
 例えば、子どもが勉強をしないで、遊んでばかりしているとします。
 お母さんがお父さんに、「うちの子、遊んでばかりで、本当に勉強しないで困るわ。たまにはあなたから子どもに話をしてよ!」と訴えます。
 そうするとお父さんが、「子どものことはお母さんに任せてあるから、お母さんが何とかすればいいでしょう!」と、お母さんに言い返します。
 お母さんは、「お父さんはいつもそうなんだから、もう話はしないわ!」と怒って、それで話は終わってしまいます。そんな繰り返しのパターンは、家族関係の中で、よく見受けられる光景です。
 このように「子どもが勉強をしない」という問題に対して、お父さんとお母さんの行動がパターン化されていて、結局、その繰り返しの中で、問題が解決できないという状況が続いてしまうことになります。
 そんな時、お母さんの方から少し今までと違った話し方をするというように、少しパターンを変えてみると、問題解決の糸口が見つかる場合があります。
 例えば、子どもの問題にダイレクトに話を始めないで、「お父さん、いつも感謝しているわ。ありがとう!」というように、お父さんへの具体的な日常感謝をしている事柄から話を始めるのも一つの方法かも分かりません。
 いつもと違ったそのような感謝の気持ちを具体的に伝えれば、お父さんから「お母さんにも子どものことでいつも苦労をさせて、悪いね」というような言葉が返ってくるかも分かりません。
 また、場面を変えてみることも一つの方法かも分かりません。
 いつも子どものことの話をする場面が、食事中だとすれば、食事を終えた少しくつろいだ時間帯に、「今日は、お父さんの好きなスコッチウイスキーを買ってきたわよ!ハイ!プレゼント!」とお母さんから状況を変えてみるのも一つの方法かも分かりません。この話は、少し私の願望が入っているみたいですね。
 もう一つこのプレゼントに意味があります。プレゼントの最も効果的な方法は、相手が期待していないときに、感謝の気持ちを込めてプレゼントすることです。
 皆さんが抱えている問題を少し思い浮かべていただいて、その解決への対応がパターン化されているようでしたら、少し違ったアプローチを考えてみることをお勧めします。
 パターンを変えるということで、私の体験談を一つお話します。
 京都市横大路学園にいたときに、Iさんという女性がいました。Iさんは弱視という視力に障害がありました。
 ある時、当時高槻市の市会議員をされていたYさんが見学に来られました。Yさんは全盲の市会議員として有名でした。
 YさんにIさんを紹介するときに、私が「Iさんです。彼女も目が不自由なんです」と紹介したのですが、この「彼女」が後々大変な問題を引き起こすきっかけとなりました。
 Iさんは、「松上さん、私のこと『彼女』といわはってんけど、奥さんいるんやろか」ということになり、私に好意を持つようになりました。
 それからというものIさんは自分に私からの注意を引き付けるために、わざと食事中に大声を出して他の利用者と喧嘩を始めたり、私の靴を川に捨てたり、様々なトラブルを引き起こすことになります。
 私の家にも頻繁に電話をかけてこられるようになり、妻が出ると「電話にでんといて!利男さんはよだして!」と大声で怒鳴るというようなこともありました。
 Iさんの私への注意獲得を目的とした様々なトラブルに対して、他の職員と協力して、私がそのトラブルに関らない様にしました。
 例えば、食事場面で他の利用者とトラブルを起こした場合、私は即座に食堂から出て行き、他の職員がIさんに対応するようにしました。
 しかし、問題は解決しません。そして、その対応のパターンを変えることにしました。
 Iさんはいつも私に「松上さん!もっとかかわって欲しいわ!」と訴えていましたので、シグナルコントロールという行動療法の一つの方法でアプローチをすることを試みました。
 具体的にお話をしますと、Iさんは弱視という障害があるので、Iさんに見えるような円形の大きなワッペンを作り、そのワッペンの表と裏に「緑」と「赤」の色を塗りました。
 Iさんと話をして、「私が赤色のワッペンを胸につけているときは、Iさんとお話はできません。しかし、緑のワッペンのときは、Iさんと相談室で5分間お話ができます。赤のワッペンのときは、喧嘩をしたりしないでがんばってお仕事をしたり、友達と仲良くしてください」と伝えました。
 その後、私は胸に厚紙で作った大きなワッペンをつけて勤務することになりました。
 Iさんにとっては、「私のために特別にワッペンをつけてくれている」という思いを持つようになり、私がいつもIさんに注意を向けていることに満足することになりました。
 また「赤」色のときでもIさんにとっては拒否ではなく、「緑」色の時には話ができるという見通しが得られ、「トラブルを起こさなければ話をしてくれる」という安心感と、具体的な期待される適切な行動を意識するようになりました。
 私は、休憩時間になると「赤」色のワッペンを「緑」色に裏返し、Iさんと5分間のお話を続けるようにしました。
 そんな小さな取り組みでしたが、それ以降Iさんのトラブルが目に見えて少なくなっていきました。
 このようにちょっとパターンを変えたことで、良い関係が築けたという私にとっては象徴的な体験になりました。
 皆さんのご参考になれば幸いです。

掲載日:2008年07月24日