自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第21回

私自身への気づきの大切さ

 


 京都市横大路学園に勤めているときの出来事でした。利用者のKさんが突然登園拒否の状態となりました。
 職員間であれこれとその原因を探りましたが、確固とした原因を見つけ出すことはできませんでした。
 当時の法人が運営していた「京都国際社会福祉センター」で、私は関西学院大学のケイト先生から行動療法を学んでいました。そこでケイト先生の講義からヒントを得て、画用紙に升目をつくり、Kさんが登園できたときには升目を一つ、好きなクレパスの色で塗りつぶしてもらうようにしました。次に登園すればまた一つ、です。ケイト先生によれば、「大きい桝目の方が色を塗りながら『やった!』という実感が得られる」とのことでしたので、10センチ角の大きな升目にしました。
 私は、本人に対するこの取り組みで、問題が解決するとの確信などはなかったのですが、本人にとって施設に来る何かのきっかけの一つにでもなればという気軽な思いから始めてみることにしました。
 Kさんには、「仕事はしなくてもいいから、学園に来てね。Kさんの元気な顔が見たいから」と登園を促しました。作業場に入ることはなかったのですが、その後毎日施設に来てくれるようになりました。
 このKさんへの取り組みとともに、お母さんとの週1回1時間の面談をすることにしました。
 Kさんのお父さんはすでにお亡くなりになられていたのですが、お母さんとの面談の中で、「お父さんが大切にしていた形見のレコード盤を燃やしてしまった時には、本当に腹が立って、怒ったことがありました」など、Kさんの話やKさんとお母さん、弟さんとの関係の話など、毎回、お母さんの気持ちを含めて話をしてくださっていました。
 この話をお聴きしながら、私は、「Kさんは今、お母さんへの依存と自立したいとのアンビバレントな気持ちの中で、悩み、葛藤しているんだろうな」との思いを強く持ちました。
 ある面談の中で、お母さんが、「弟が風呂に入らなくても何も気にならないし、本人の好きなようにさせているんですが、Kのときは、『なぜお風呂に入らないの?ちゃんとお風呂に入りなさい』と言ってしまうんです」と話をされました。
 Kさんは当時、20歳ぐらいだったと思いますが、弟さんはちょうど大学に入学された時期だと思います。お母さんは、「よく考えると、弟にはあれこれ言わないのに、兄のKにはあれこれ指示していますね」と、Kさんに対する弟さんとの対応の違いに気づかれ、「これからできるだけ弟と同じ対応をしょう」と、この面談を通して、思われるようになられました。
 このKさんに対するお母さん自身の気づきが得られた後、Kさんは、施設に通所して、作業場に入り、仕事をされるようになりました。
 私は、このKさんとお母さんとの関わりを通して、自分自身に対する「気づき」の大切さを学びました。
 また、他者との関係の中で、自分自身が気づかないところで、他者に対して様々な影響を与えている自分自身の存在にも気づかされました。
 私たち対人援助専門職は、自分自身の身体を通して、他者に対する支援を行っていますが、他者に対して自分自身がどのような影響を与えているのか、また他者がどのように私自身を感じているのかを知ることは、大変重要な事柄です。
 対人援助の基本は、支援している人の思いや感情を理解するという「他者理解」とともに、自分自身が他者に対してどのような影響を与えているのかという「自己理解」であると思います。
 対人援助専門職に関わらず、日常の人との関わりの中で、自分自身に対する「気づき」が、より良い他者との関係を築き、対人関係における問題解決にとって重要なことの一つであるということを、私自身が学ばせていただいたKさん、お母さんとの貴重な出会いでした。
 お二人にはとても感謝しています。

掲載日:2008年06月19日