自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第71回

障がいのある人達のディーセントワーク②

 

 私は38歳の時に「京北やまぐにの郷」という入所施設の施設長になりました。

「京北やまぐにの郷」は、重い知的障がいを伴う自閉症の方の支援に特化した当時としては非常に珍しい施設でした。

私が施設長になった当初は、自閉症だから様々な行動障がいあると理解されていたように思います。

 

 自分の顔面を叩いたり、他人を叩きにに行ったり、物を壊したり、パニックになったり、昼夜逆転になったり…

それは自閉症だからそういう行動が出るのではなく、その様な行動を誘発する環境の問題なのです。それは支援者の支援も含めた環境の問題があって、その様な行動が誘発されると思っています。

 

 私は施設長に就任してすぐに地域の中で働くという実践をしたいと考えていました。どんなに障がいが重くても、行動的な課題があっても地域の中で働くことができる環境を創ることを大きなテーマとしました。

 

 施設の近くにアメリカンミニチュアホースという小さな馬を育てている牧場がありました。12月に牧場オーナーの西村さんが来られて、クリスマスにアメリカンミニチュアホースにカート曳かせて西村さんがサンタの恰好をして色んなプレゼントを積んで慰問に来たいという申し入れをいただきました。その時、私は「その様な申し入れは本当にありがたい、嬉しいです。」と話をしました。そして、その後すぐに「実は、私たちが一番欲しいプレゼントは働くことなんです。利用者に働く場を提供してもらえませんか?」とお伝えしました。

 

 西村さんは非常にご理解のある方で、その場で「分かりました。年が明けたら来てください。」と仰いました。ありがたい話だということで、年が明けて職員2名と利用者5~6名で牧場を訪れることにしました。その5~6名の人は重度の知的障がいを伴う自閉症の人で、行動的な課題がある方々でした。

 

 牧場の整地をしたり、馬房に敷いてあるおがくずを入れ替える仕事を頼まれました。これは、非常に分かりやすい仕事で、自閉症の人にものすごく向いた仕事でした。汚れたおがくずを全部無くして、新しいのを入れるという仕事を頂きました。ただ、通い出した当初は、色んな行動的な課題がありました。一輪車を倒したり、スコップを投げたり、地面に寝転んだり…その様な状態で始まりました。

しかし、働いているうちに自分の働く役割が明確になりました。それぞれが出来る仕事をつくりだし、働ける環境をつくって働けるようになったのです。

 

 毎日牧場に行くのが楽しみになり、それまで夜なかなか眠れなかった人も昼間しっかり活動をすることで夜ぐっすりと眠れるようになり、生活のリズムも整い、行動的な課題も改善されていきました。やはり、日中の活動・働くということをしっかりと支援することは本当に大事と思いました。

 

 それから半年程経ってから、西村さんが、「今やから話しますけど、『はじめにいいですよ、来てください』と言うたけど、最初は、えらいことしたなと思いました。始まったら一輪車は倒すわ、寝転がるわ、スコップを投げるわ…どうなるやろうと思ってたけど、みんなが色んな役割を果たせるようになって、今となっては彼らの働きがなかったらうちの牧場は成り立たない状態になっています。有難いです」という話を頂きました。それからずっと働く場として行動的な課題がある人達がそこで働ける環境ができました。そんな実践を通して、「働けない」を障がいの問題にしてはダメだ、むしろそれは支援者の課題なんだという様により強く思うようにもなりました。

 

 今は北摂杉の子会で入所施設をはじめ、通所の就労継続支援B型事業所や生活介護の事業所も運営していますが、やはり働く環境をどの様につくるのか、一人ひとりの強みをどう生かすのか、社会とのつながりの中での働きをどう作るのかというのは、今でも様々な実践を積み上げているところです。

今回は、ディーセントワークを考える1つの大きなポイントとなったエピソードについてお伝えしました。

 

 

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掲載日:2022年11月15日